皇女ブログ

皇女とか団長とか鮮血魔嬢とかアンヌとか

Soteriology

フレイメノウのss書くって言ったら主題がぶれました、誕生日イラストと合わせて見てください

もっと私を愛してよ!
悲痛な叫びに目を覚ます、私卯月神楽のいつもの朝だ。
努めて笑顔を作り泣き崩れる母の前に立つ。
「おはよう、ママ」
「あら、私の愛しい神楽ちゃん」
先程までの取り乱した女とは別人かのように明るい笑顔を見せる母。
「まっててね、私の愛しい神楽ちゃん。すぐにごはんにしましょうね」
私は父の顔をよく覚えていない、一緒に居たことが無い訳では無いが父の顔よりいつも泣きじゃくる母親の顔ばかり鮮明に頭に残ってしまっている。
幼かった私は父の言ってる事はわからなかったし、母がなぜ泣いているのかもわからなかった、ただ一つ分かることは私が父を嫌いであるということだけだ。母を物のように扱い私を卯月神楽として見れない父を私は許すことはしないだろう。
朝食を作る母の目を盗みポケットをまさぐる、目当ての物は父の落としたタバコの箱だ。中には真新しいものが4本と少しだけ短くなったものが1本入っている。
「ねぇママ」
タバコを隠しながら母の笑顔と正面から向き合う、そして沈黙。
どうしたの?具合が悪いの?と不安がる母になんでもないと気丈に振舞って見せ言いたかった言葉を紡ぐ。
「今日もつばめのところに行ってきます」

「おはよう、つばめ」
今日も返事がないあいさつを病室に響かせつばめの眠るベッドに腰掛ける。
私がつばめを壊そうとしたあの日、みんなが私を救ってくれたあの日からつばめは目を覚まさない。
「聞いてくださいつばめ、今日アーヤさんがね・・・」
つばめの愛した世界の話を今日も紡ぐ。
つばめが愛した歌を今日も紡ぐ。
私が愛したつばめのために。
「ふふ、つばめは今日もお寝坊さんですね」
今日も返事をくれないつばめに涙を見せないよううつむきながら無意識にタバコの箱をなぞる。

これは父のものだったタバコだ、もらったとか預かったとかではない。盗んだのだ。
父が母に暴力を振るうようになったのはそこまで最近の話ではない。最初は私のことで喧嘩をしたときだろうか?
教育方針、仕事の事、酒が切れた、気に食わないことがあると父はすぐに暴力を振るった。父が暴力を振るった後必ず母は私を愛してくれた。それが悲しくて怖くてたまらなかったのだ。
そんなとき私は思ったのだ、争う原因になるものを私がなくしてあげようと。
こうして私はタバコを父のカバンから抜き取った、そうすることで二人が喧嘩をすることはないと思ったからだ。
しかし現実はそう簡単ではない、その日も父は母に暴力を振るい母は私をいつもより強く愛してくれた。
皆さんのお母さんも時々みぞおち決めたりしますよね?そうでなければ私は母の愛を愛としてうけとめられない。
その夜私は父から盗んだタバコの封を開けた。綺麗にならんだ12本の白い筒。物語で見聞きしたように背中を叩き一本取り出し、満たされないもやもやとした気持ちを埋めるかのように父のタバコに火をつける。
「……マズ」
苦い風味が身体中を蝕み、白い煙が視界を覆う。
やってはいけないことをした背徳感と父親に対する憎悪が私の思考を塗りつぶし、私は思考することをやめた。それ以来私はなにか嫌なことがあるとタバコを口にするようになった。
父が自宅に返ってこなくなった日、飼っていた犬がいなくなった日、事務所の先輩から一之宮と呼ばれた日、音羽を馬鹿にされた日、パッドが厚くなった日。
細かい事は覚えていないが本数を数えるとそんな所か?今思えばそれは私なりの父への反抗だったのかもしれない。
箱から取り出した短くなった1本を撫でる、この1本のことだけは一生忘れない、それが音羽への贖罪だから……

「ねぇ神楽」
「どうしたの音羽?」
差し出されたドリンクに口をつけながら返事する。
如月音羽は私の親友だ、美しく凛とした声と力強く健康的な四肢と短く切りそろえられた髪は同性から見ても魅力的で美しい。それでありながら女性的な魅力を損なわせない所作の美しさを持ち合わせた少女だ
「また怖い顔してたよ?」
「・・・そっか、ごめんね音羽」
母の時と同じように大丈夫と口にしようとして言葉を変える。音羽は私のことを何でもわかってしまうのだ。
何も言わずに私を抱きしめてくれる音羽、その優しさに甘えたくなる自分を叱責するように突き放す。
「本当に、大丈夫だから」
嘘が下手だねと笑ってくれる大切な親友。
「何があったの?」
「私の今度のライブね、とっても大切なの」
「知ってるわよ、アーティストフレイメノウは誰よりもライブを大切にしてるもの」
「でも次は違うの、私のライブなのにね…歌えないの」
沈黙、こういう時は決まってこちらを見ないでくれるのは音羽の優しさだろうか。
「私はやらなきゃいけない事があるの、そのために私はフレイメノウになった。そう言っても間違いないくらい大切な事をするの」
ああ、私はこんなことを親友に話して何がしたいのだろう。
こんな私を見ないで欲しい、そう思う私の気持ちを察してか音羽は決して振り向かない。
「結局私が一番フレイメノウを貶めた、まるでこれじゃあパパと何も変わらない…」
「違う!」
初めて聞く音羽の怒鳴り声、震えた肩が本気で怒っていることを示す。
「フレイメノウは、卯月神楽は!そんなに甘い存在じゃない!」
大粒の涙をこぼしながら私に詰め寄る音羽、あぁ私は何をやっているんだろう。
「誰よりも音楽を愛し、自分を磨き上げ決して他人を侮辱しない気高き魂を持った私の親友!それが卯月神楽だ!一之宮なんて奴と一緒にするな!」
「その名で呼ぶな!」
詰め寄る音羽を払い除ける、私のために泣いてくれた親友を私の手で拒絶してした瞬間だ。
「貴方は私じゃない、そんな貴方が私を語らないで。気持ち悪い」
顔を抑え涙する音羽を置き去りにし、私は練習室を後にする。
「とにかく今度のライブ、絶対にこないで」
「ねぇ、神楽」
すっかり小さくなった声に足を止める。
「神楽が、神楽が側にいて居てくれたから……私は……」
私は決して振り返らない、彼女が私を見ないでくれたように。
さようなら、私の大切な親友。
その日の夜に口にしたタバコはいつもより不快な味がして、半分も吸わずに火を止めて箱に戻してしまった。

そしてライブの日、私の目的は失敗に終わった。かげがえのない親友の手によって。

とある小説の1編を読みながら長い夢を見ていたようなそんな気持ちから抜け出した、つばめの声が聞こえたからだ。
「気分はどうですか、つばめ」
悪くないよとつばめは言う、彼女の顔がよく見たくて顔を寄せるとつばめはさらに続ける。
怖い夢を見たような気がするけど、神楽ちゃんが、神楽ちゃんがそばにいてくれるから……
私を抱き寄せ涙するつばめ、泣いてはいけないと思ってはいたが私も涙が止まらなかった。私を愛してくれた私の愛する人がようやく目が覚めたのだから今日くらいはいいでしょう?
私の世界は救いに満ちていた、アーヤさん、ガブちゃん、みやびさん、音羽、つばめ。みんな私を救う為に全てを賭けてくれたのだ。この世界がほんとうはうつつでは無いことはわかっている。だからこそ私はもう迷わない、私の両腕で抱きしめられるたかがしれたうつつだけは、絶対に手放さない。
「おはよう、つばめ」