皇女ブログ

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ACT19 貴女の音が満ちますように【トラカレ2018】

12/24、劇場でのパーティーに顔を出さなかった私の部屋、音のない空間に一人の少女が訪れた。

腰まで伸ばした銀色の髪とそれを結く2つの髪飾り、勝気な表情は作り物のようでありながら力強い美しさ感じさせる、その力強さは音がない世界でも少しも失われないはっきりとした物で、むしろ無音である世界すら少女の美しさを引き立たせるものであると思わせる。
月の照らす静寂からこちらに手を振る少女に答えるようにして少しだけ微笑んでヘッドホンの左を2度叩く。

音が戻ってきた世界で少女は言った。
「こんにちは、今日も素敵な夜ね」

みんなと一緒でなくていいの?という私の質問に少し疲れちゃったのと返して隣の席に座る。

常に厳しい環境にいた彼女にとって、平和なクリスマスシーズンというのはどうなのだろう?

「あんまり好きじゃない、でも嫌いじゃない」

彼女の生きてきた世界はきっと私の世界より厳しいものだ、そうでありながら私に優しく寄り添っている彼女は今何を思っているのだろうか?

こうしている事が彼女にとって幸せなのか、私が輪に入れないことを気にしてくれていてその事が彼女にとって負担になっているのではないだろうか?

ひとつ考え出すと不安が止まらない、私が考えてもしかないことではあるのだが気になってしまったものは仕方が無いのだ。

私の不安そうな表情を見て、彼女は私の頬をなぞりながらこう言った。

「私は貴方のことをよく知らない、良かったら今宵の相手をして下さらないかしら?」
ずいぶん詩的な言い回しをする。
喜んでという私の返答を聞いた少女はどこか険しい表情を瓦解させ優しく微笑んだ。
それから私は沢山のことを話した。

今日読んだ物語のこと。

國政綾水とコネクトした時のこと。

好きな音楽の事。

他のクランとの交流について。
まとまりもなければ道筋もない、決して上手では無い話を楽しそうに聞いてくれて、気づくと彼女を照らしていた月明かりも無くなり私での音だけが満ちた世界になっていた。
「素敵なお話しね、羨ましい」
真っ直ぐな言葉でそう言われると照れると私がいうと少女は少し考えたあと、月明かりに照らされる相応しいロマンチックな物語だったと私の話を評した。
もう帰らないとと言って小さな欠伸を1つ。

私がヘッドホンを叩くと再び世界から音が消える。
音が消えた世界で彼女の仕草を眺める時間が私は好きだ、俗世から離れた美しさの彼女を見ていられることがどれだけの幸福なのか分からないほど愚かではない。

そんなことを考えながら扉に手をかける少女の背中を見送る、決して振り返らずに少女はこういった。

「またね」